[8]母の懺悔

母には、おじさんからの電話に出てしまったことも、伯母から電話がかかって来たことも、何も言わないでいた。

何事もなかったように、いつも通り事務的な会話だけ交わす日々を送っていた。

 

何がきっかけだったか、母と激しい口論になった。

「問い聞き」がどれだけ相手を傷付けて、どれだけ恥ずかしい思いをしてると思う⁈

自分たちの立場がわかっていない!

自分は結婚に失敗した上、なさぬ人との逢瀬をこっそり続け、私に同じように家名を残す為だけの不本意な結婚を求めるのはおかしいと言い争っていた。

あの日の電話のこと、私も伯母も気付いていることを吐き捨てた。

 

それでも母はシラをきり、数々の言い訳をしてくる。

その激しい声に驚いて2階の自室から降りて来た妹に気づかなかった。

 

「そんな事あるわけないじゃない!お姉ちゃん頭がおかしいんじゃない⁈」

 

 

 

 

その日から何年か経った頃。

私が一人暮らししている部屋を訪れた母がポツリと言った。

「とうちゃんに悪いことをした」

 

父に介護が必要なった頃だった。

母は父の介護に献身的だった。

まるで今までの裏切りの日々を取り返すように。

懸命な介護が続いた。

それは10数年にも及び、自治体からも表彰されるほどのものだった。

親戚からも絶対的に信頼を得ていた。

 

私も、ある意味ほっとしていた。