2024-01-16から1日間の記事一覧

[7]電話

一家に一台の固定電話しかなかった頃、 うちの電話は納屋で農作業してても着信音がわかるよう、居室と納屋の中間にあたる炊事場に置いてあった。 その夜、私は2年前に卒業した高校の友達からの電話がかかってくるのを、電話の前で待っていた。 時間を決めて…

[6]結婚なんかしないと誓った日

それは22歳の時だった。 海で出会った彼と恋愛真っ只中だった。 寝ても覚めても彼のことばかり考え、仕事で嫌なことがあっても、忙しくて大変でも彼を想うことで頑張れた。 しかし彼は、尊敬する父親の事業を引き継ぎ軌道に乗っていた。 私の親の求める人と…

[5]妹の思い

何も話さなくなった私に業を煮やした母や親戚たちは、妹に方向転換した。 偶然にも、妹とお付き合いしていた男性は、長男でも無く、農業にも拒みも無く、むしろ同じような農家育ちで稲作に馴染みがあったようだ。そして機械いじりが得意という。 しかし、そ…

[4]秘密主義

男子が生まれなかったわが家。 長女として生まれたわたしは、婿養子をもらい家を継ぐ、家名を残すというのが私の役目だった。 おばあちゃん子だった私は、祖母と離れて暮らすことなど全く考えられず、ずっとこの家にいるものと思っていた。その後の影響など…

[3]父の宿命、母の宿命

長男として生まれた父は、やはり家を継ぐ立場にあった。生まれつき身体が弱く、年頃になってもなかなか縁談は無かった。 そこで白羽の矢が立ったのが、祖母の姉の娘である私の母。いとこにあたる。歳合いもちょうどよい。 母にとって、いとこである父の家の…

[2]わが家の歴史

父は長男として生まれた。その地域では割と大きい稲作農家。 祖父の代までかなりの大地主の名家だったらしい。 父のきょうだいに女が多く、一人嫁に出す度に一つ山を売り、一つ田んぼを売り…と土地が無くなっていったと聞いていた。 違った。 祖父は社交家で…