[10]妹からのメール

妹の旦那は、思いのほか亭主関白だった。 

妹は甘えん坊のところもあり、旦那様に頼りきっていたし、稲作のわからない事は、旦那様が母やおじさんから伝授してもらっていた。

 

地域の奉仕活動にもよく参加し、とにかく真面目で近所からの信頼も厚く、

気がつけば、よそから迎えた婿さんではなく、母との関係も本当の親子のようで、親戚中からも頼りにされていた。

 

子孫も繁栄し、穏やかな空気がこのままずっと続くと思っていた。

 

 

 

 

あれから何年経っただろう。

父が亡くなって数年は経ってたと思う。

 

夫が仕事帰りに郵便受けの中に妹の旦那様の走り書きのメモを見つけた。

妹夫婦は、うちの詳しい住所や連絡先を知らない。

最後にうちに来た時、8歳くらいだった甥っ子にだいたいの場所を聞いて、探して訪ねて来たのだろう。

 

私は、すでに喋り辛くなっており、不意のインターホンには出ないでいた。

 

電話をくれ、とあったが、今の私の声を聞かすわけにはいかない。

携帯アドレスを記した電報を送った。

 

翌日すぐに妹からメールが届く。

何度も読み直すもなかなか読む解くことができない。

 

 

要約すると、

母の家に年下の男が出はいりしていると。

しかも、その男は金目当てとの噂あり。

 

その噂を聞いたかつての(と思っていた)愛人であるおじさんが中に割って入り、揉めている。要は三角関係。

 

母は70歳代後半。おじさんは80歳代後半。

年下の男…と言っても、やはり高齢者。

 

妹夫婦の耳にも噂が入ったが、妹に言わせると80歳近くのばあさんのすることと思えず、ただの噂と相手にしていなかった。

 

母は、噂を聞き、在宅中も家のそこら中に施錠するようになった。

いつもは、妹夫婦がいつでも出はいりできるよう開け放してある。

  

不穏な空気を感じた妹夫婦は、あくまでもただの悪い噂と信じて疑いを晴そうと母の顔を見に行った。

 

すると、隠れるような場所に見知らぬ車が止まっていた。

妹の旦那は、一箇所だけ人ひとり通れる破れた壁があるのを知っていた。母は知らない。

そこから妹夫婦が入り、現場を見て、本当のことを知ることになる。

 

メールには、その年下の男との生々しい現場の様子が描写されていた。

 

妹夫婦は激怒し、叱責・怒号の中で、おじさんとのことも言い訳する下着姿の母。  

半裸状態で逃げる年下の男。

騒ぎを聞きつけて例のおじさんも加わった。

 

その夜は大騒動になったらしい。

怒りのおさまらない妹夫婦が翌日すぐに私の家を訪ねて来たという訳だ。

 

あの時、お姉ちゃんが言ってたことは本当だった。ごめんなさい、ごめんなさい…と何度も謝る妹。ずっと騙され続けていたと。

 

 

 

 

あっという間に親戚中、近所にまでその話は広まった。

 

思ってたとおり、いやそれ以上の騒ぎになった。

金目当てと言われた母の年下の男は、その後消息不明となり、母もこの町にひとりで暮らせないと実姉を頼り、離れた町でアパート暮らしをしているという。

 

妹家族のことも噂は尾ひれをつけて広まり、針のむしろ状態だったが、ここでこの町を逃げては嫌な噂、間違った情報を認めることになる。

妹家族は何も悪いことはしてない。堂々としてればいいと親戚中を味方につけた。